約束から10年

ミケランジェロ 最後の審判

ミケランジェロ 天地創造

バチカンでみたシスティーナ礼拝堂をもう一度見たいと、10年前のお正月に母が言った。イタリア、また行く?と誘うと、さすがにそれは…と、一枚の紙を見せてくれた。紙には、「今年(来年)行きたいところ 徳島県 大塚国際美術館」と筆ペンで書かれていた。

きっと何かのテレビを見ていて知ったのだろう。世界の名画が、実物大の陶板で再現されていること、礼拝堂もそのままの大きさってこと、システィーナだけでなく、ルーブルでみたあの絵もこの絵も、もう一度みられるんだよと、少し興奮気味に話す母。

徳島県か、土日じゃ難しそうだし、当時の勤務地を考えると+2日は必要だと思い、「この数年の内に行けたらいいねー」と答えた。

でもその「いつか」は結局訪れることはなく、その年の内に母の病気がわかり、あっけなく逝ってしまった。

果たせなかった約束はずっと心のなかにひっかかっていて、ことあるごとに思い出す10年を過ごした。仕事、休み、そして自分自身の精神状態がうまくかみ合ったのか、ついにあの約束を果たす気持ちになり徳島を目指した。

実際のシスティーナよりも少し明るく感じる美術館のホールで、しばらく座り一つ一つの絵を眺めた。

母と一緒にしたいくつかの旅を思い出しながら、改めて10年という月日をどう過ごしてきたのか、母を亡くしてぽっかりと空いた穴を、私は何で埋めてきたのかを考えた。

母の声を聞けなくなって、何日が過ぎた…と思いながら過ごした最初の数ヶ月、一年、二年。夢にも出てきてはくれなかった数年。

穴はそれなりに埋められている気もするし、新たに失ったものも、たくさんある気がする。

それでも最近は、思い出さずに終わる日があるのも事実。でもそれは、振り返らずに生きていけているということなのかもしれない。

一緒に来ることはできなかったけれど、母を思いながら美術館の作品をゆっくりとめぐることにした。

ヴィジェ ルブラン 

ヴィジェ ルブラン夫人とその娘

 

ダヴィッド

ナポレオン1世と后妃ジョゼフィーヌの戴冠

 

ゴッホ  ローヌ川の星月夜

ラ・トゥール  大工の聖ヨセフ

他にも好きな絵がたくさんあったけれど、それはまたこんど。